この本を通じて、私が皆さんにお伝えしたいのは、新しい時代のリーダーシップのあり方です。それは、強引に前に出るのでもなく、かといって消極的になるのでもない、自然体で周囲を活性化させる力のことです。私はこれを「回す力」と名付けました。
「回す力」とは、具体的には次の3つの力を指します:
- 人を回す力:相手との何気ないやりとりを通じ、徐々に好意を集めていく力
- 場を回す力:メンバーとのやりとりを通じ、その場を愉快なものにしていく力
- 組織を回す力:そのコミュニティを裏方で支え、さらに活性化させていく力
なぜ今、この「回す力」が重要なのでしょうか?
それは、現代のビジネス環境が大きく変化しているからです。情報があふれ、変化のスピードが速い今の時代、リーダー一人の知識や経験だけでは対応しきれません。メンバーや外部の知恵を上手に引き出し、活用する「プル型」のマネジメントが必要不可欠になっています。
また、働き方改革や心理的安全性の確保など、職場環境の改善が叫ばれる中で、単に「プッシュしない」だけでは不十分です。メンバーの意見を引き出し、場を活性化させ、組織全体を盛り上げていく積極的なアプローチが求められているのです。
本書では、この「回す力」を身につけるための具体的な技法を紹介しています。例えば
- 相手の発言に「+αの反応」を返す方法
- 場を活性化させる「的確な突っ込み」の技術
- メンバーの話を丁寧に拾い、面白く展開する方法
- 議論が本筋からそれた時に、やさしく軌道修正する技
これらの技法は、一見すると難しく感じるかもしれません。しかし、本書では段階的に習得できるよう工夫しています。60点くらいを目指せば十分です。少しずつ実践していくことで、必ず身についていきます。
そして何より大切なのは、「楽しさ」を意識することです。生産性向上や働き方改革も大切ですが、仕事の時間が楽しくなければ、長続きしません。「この人といると気持ちいい」「この場にいると楽しい」「この組織にいると幸せだ」と周りから思われるリーダーになることが、結果的にメンバーのやりがいやエンゲージメントを高めることにつながるのです。
私は長年、事業変革のコンサルタントとして多くの企業をサポートしてきました。その経験から、「回す力」を持つリーダーがいるだけで、その場が活気づき、様々な知恵が自然に引き出されることを肌で感じてきました。この「回す力」を体系的に整理し、誰でも再現できるようにすれば、リーダーも周りも、もっと幸せになれるのではないか。そう考えて、この本を書きました。
最後に、皆さんへのメッセージをお伝えします。
- 相手が持っているアイデアや思いは、もっと引き出せます。相手を尊重し、良い関係を築き、面白い問いを立てることに挑戦してみてください。
- 「楽しさ」を意識したマネジメントが重要です。様々なマネジメント論やコミュニケーション論に加えて、「楽しさ」を作る工夫も取り入れてみてください。
- 良い環境を作るには、まず自分から変わることです。他責にせず、自分がどう動けばいいかを考えて行動することが、何より大切です。
この本を通じて、皆さんが新しいリーダーシップの形を見出し、仕事も人間関係も、そして人生をさらに豊かなものにする方法を掴んでいただければ幸いです。一緒に、「回す力」を身につけていきましょう!